うつ病
depression
うつ病は、気分が長期間にわたって憂うつで、無気力で何事にも興味を持てないなどの精神的な不調に加えて、「眠れない」「食欲がない」「体が怠い」といった身体的な不調が長期に渡って続き、日常生活に支障をきたす病気です。
うつ病は昔と比べて増加傾向にあり、今では特別な病気ではなく誰もがなり得る身近な病気と言えます。原因は様々であり、仕事の過労や人間関係、また夫婦間のトラブルや育児、介護などといった家庭環境、親しい人との死別や引っ越し、昇進など多岐にわたります。放置していると重症化するケースも多く、早めの対処と適切なサポートが早期回復への道となります。
治療について
うつ病の治療で基本となるのは休養、薬物療法、精神療法です。
休養については特に初期治療においてかなり重要となり、多くの場合で仕事や学校などを思い切って休んで療養に専念することが必要となることがあります。
薬物療法では抗うつ薬による治療を行います。うつ病における薬物療法は日々進化を続けており、従来のような副作用の強い薬を使うことは稀で、最近では副作用が少なく、かつ効果も十分な薬剤が多くあります。抗うつ薬だけでなく、症状に合わせて睡眠薬や抗不安薬を併用することもあります。
精神療法では本人の考え方の癖(完璧主義、過度に頑張りすぎる、否定的な面にばかり目を向けてしまうなど)や対人関係に焦点を当てて、それらを少しずつ修正していくようなアプローチを行っていきます。
適応障害
adjustment disorder
適応障害は、職場の配置転換や引っ越し、転校などの人間関係や生活環境の急な変化が引き金(ストレス因)となって精神的、身体的に不調となり、日常生活に支障をきたす疾患です。
具体的には気分が落ち込んだり、不安が強くなる、夜眠れない、神経が過敏になるといった症状が出現します。また腹痛や頭痛、動悸、吐き気といった身体的な症状を伴うことも多々あります。こうした症状が続くと、その苦痛から次第に遅刻や早退、欠勤などが続くようになります。
ストレスは個人によって感じ方や耐性が異なり、そのことも適応障害の発症に関与していると言われています。
適応障害は適切な治療をせずに放置していると症状が悪化し、うつ病に発展することもあります。そのため、早めに受診し適切な治療を行なっていく必要があります。
治療について
適応障害の治療にあたっては、自身の置かれた環境を見直し、ストレス因を軽減することが最も重要です。すぐに環境を変えることが難しい場合には、一旦はストレス因から離れるために休職や休学を勧める場合があります。ひとまず自分の置かれた環境から離れることで、精神的、身体的に回復し、その間に必要な環境調整を行なっていきます。
このように適応障害の治療の中心は環境調整ですが、「眠れない」「不安が強い」といった症状が見られる場合には補助的に薬物療法を行なっていくケースもあります。
不眠症
insomnia
不眠症は、就寝時や睡眠中に問題が生じ、十分な睡眠を得られない状態です。不眠症には主に4つのタイプがあり、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害があります。 これらの症状が持続することで、日中の眠気や疲労感、集中力の低下を引き起こし、日常生活に大きく支障をきたします。
治療について
不眠症の治療は、生活習慣の改善と薬物療法が中心となります。生活習慣で気を付けることとしては、夕方以降のカフェイン摂取を控える、就寝前のブルーライト(スマートフォンやパソコン、テレビなど)の使用を避ける、眠くなってから床につく、などです。飲酒や喫煙も睡眠の質を大きく低下させるため注意が必要です。 また、薬物療法としては睡眠薬を使用していきます。従来型のベンゾジアゼピン系と呼ばれるものは耐性や依存性の問題があり、むやみに使用するとかえって問題を大きくしてしまうことがあります。近年では依存性がない、もしくはかなり少ないタイプの新しい睡眠薬が発売されています。個々人の症状に合わせて適切な薬剤を選択し、将来的には中止することを見据えた薬剤選択が重要となります。
双極性障害
bipolar disorder
双極性障害は、以前は「躁うつ病」と呼ばれ、気分が大きく高揚する躁状態と、気分や意欲が低下するうつ状態とを行ったり来たりします。
気分が異常に高揚する躁状態では、睡眠時間が減少し活動的になる、頭の回転が速くなり色々なアイデアが湧き出てくる、普段よりも気が大きくなり一方的に話し続けるといった症状がみられます。また浪費や散財などみられ、時には相手に食ってかかったり、イライラが止まらずにトラブルに発展したりといった問題も多くなります。
うつ状態では前述したうつ病とかなり似た症状がみられます。双極性障害のうつ状態ではイライラも伴うことが多く、また元気の良い日もあったりとうつ病とは少し異なる面もあります。双極性障害
は明確な躁状態がみられるⅠ型と、うつが主体で躁の程度があまり大きくないII型に分けられます。II型の場合にはうつ病と見分けにくくなり、早期から正確な診断をすることがその後の予後に大きく関わってきます。
治療について
双極性障害の治療は薬物療法と社会リズム療法が基本となります。
薬物療法は気分安定薬や非定型抗精神病薬が中心となります。抗うつ薬を安易に投与すると効果が乏しいだけでなく、躁状態や強いイライラを増悪させることもあり注意が必要です。
社会リズム療法では、日々の生活リズムを整えていくとともに、対人関係にも焦点を当てていきます。生活リズムの乱れは気分の乱れと連動していることが多く、睡眠表やアプリなどを使うことで生活リズムを可視化することができ、自身の状態を正確に把握し病気を深く理解することにつながります。
パニック障害
panic disorder
パニック障害は、突然の強い不安や恐怖が発作として現れる症状を特徴とします。
パニック発作時には、動悸、呼吸困難、胸の痛み、ふるえ、吐き気などの身体的症状や、強い不安感、現実感の喪失、そのまま死んでしまうのではないかといった精神的症状が同時に現れることがあります。
パニック発作が起きると、「また発作が起こるのではないか」という予期不安がみられ、次第に発作が起きそうな場所を避けるようになります。特に、大勢の人がいて逃げられないような場所が苦手な状態を「広場恐怖」と言います。具体的には満員電車や飛行機、映画館などです。
また、その他にも美容院や歯医者、高速道路なども避けるようになる傾向があります。治療せずに放置していると次第に行動範囲や生活圏が狭まっていき、場合によっては外出自体が困難になるケースもあります。
治療について
パニック障害の治療には、薬物療法が非常に効果的です。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という一部の抗うつ薬と、不安を抑える抗不安薬で治療していきます。薬物療法の効果が出て来れば次第に発作の頻度が減り、予期不安も少なくなっていきます。
そうした段階で恐怖や不安で避けていた状況にあえてチャレンジし、徐々に慣らしていく治療を、暴露療法と言います。苦手なものの中でも、不安の低い課題から始め、徐々により不安の高い課題へと挑戦していきます。こうすることで元の生活を取り戻し、薬を中止しても何年も安定している方もおられます。
社交不安障害
social anxiety disorder
社交不安障害とは、人前で話す、スピーチをするなどの状況で強い緊張や不安、恐怖を感じ、発汗や手足の震え、息苦しさなどの症状が現れる、いわゆる「あがり症」です。
周囲の人から注目を浴びるのが極度に苦手であり、スピーチや会議での発言、朝礼などで症状が出ることが一般的ですが、人前で字を書くときや誰かと一緒に食事をする時などにも同様の症状が出現することがあります。
治療について
薬物療法では、抗うつ薬や抗不安薬が中心となります。震えや動悸に対してはβブロッカーと呼ばれる薬剤を併用することもあります。
強迫性障害
obsessive-compulsive disorder
強迫性障害の主な症状は、強迫観念と強迫行為です。
強迫観念とは、自分の意志に反して頭の中に不安な考えやイメージが繰り返し浮かんでしまい、なかなか振り払えない状態です。強迫行為とは、強迫観念を打ち消そうとして繰り返し行われる行動のことです。具体的には戸締まりや火の元を何度も確認したり、「知らない間に車で事故を起こしているのではないか」と思って来た道を何度も引き返したりといった症状がみられます。
また不潔恐怖のため何度も手を洗ったり、消毒したりと日常生活に大きく支障をきたします。自分では不条理なことをしていると分かっていても、それをやめられないことが特徴です。
治療について
薬物療法としては一部の抗うつ薬が有効となります。 暴露反応妨害法と呼ばれる行動療法も併用していきます。
統合失調症
schizophrenia
統合失調症は、幻聴や妄想といった症状が特徴的です。
こうした症状は陽性症状と呼ばれ、具体的には、誰もいないのに声が聴こえてくる、自分を非難するような悪口が聴こえてくる、周りの皆んなから嫌がらせをされている、盗聴されている、監視されている、といった症状です。
統合失調症では陽性症状だけではなく、意欲がなくなり感情表現が乏しくなる、家に引きこもるようになる、といった陰性症状も認めます。
また、集中力の低下し忘れっぽくなる、考えがまとまらずに会話がしにくくなるといった認知機能障害もみられます。
統合失調症は、初期段階で適切な治療をすることが予後に大きく影響すると言われています。
治療について
薬物療法では抗精神病薬が中心となります。調子が良くなってくるとつい内服を忘れてしまったり、勝手に中断してしまうことで病状が悪化するケースが多くみられるので注意が必要です。
むずむず脚症候群
(レストレスレッグス症候群)
restless legs syndrome
夜間を中心に足のむずむずした症状があり、横になった時やじっとしている時に起こることが多く、足を動かすと少し良くなるのが特徴です。女性の方が男性よりも多いことが分かっています。鉄分の不足や神経伝達物質のドパミンが関与していると言われています。
治療について
薬物療法としては、鉄補充やドパミンアゴニストと呼ばれる治療薬を用います。一部の抗てんかん薬を使用するケースもあります。
認知症
dementia
認知症は、主に高齢者に見られる病気で、記憶力や思考力、判断力の低下などが特徴です。症状には物忘れや迷子になること、日常生活の動作の困難さ、言葉の理解や表現の障害などがあります。これらの症状は徐々に進行し、個人の生活や社会的な機能に大きな影響を与えることがあります。
治療について
認知症では主に環境調整を行っていきます。認知症は家族にも大きく負担がかかる病気です。デイサービスやショートステイの積極的な利用や、リハビリテーション、運動療法などを行うことで生活の質を改善していくようなサポートを行います。
抗認知症薬と呼ばれる認知機能低下の進行を抑える薬を使ったり、夜間せん妄などの症状に対しては少量の非定型抗精神病薬を用いることがあります。
月経前不快気分障害
(PMDD)
premenstrual dysphoric disorder
月経が始まる2週間前ごろから心身が不安定で不調をきたす状態を月経前症候群(PMS)と言います。その中でもイライラや不安感、気分の落ち込みが強く出てしまう場合は、月経前不快気分障害(PMDD)と診断されます。
月経が始まると症状は消失することが特徴的です。
治療について
薬物療法としては漢方薬や少量の抗うつ薬が効果的です。
その他
others
更年期障害、発達障害(自閉症スペクトラム障害、ADHDなど)、アルコール依存症、全般性不安障害、身体表現性障害など